学会について

ご挨拶

日本うつ病学会理事長からのご挨拶

理事長 渡邊衡一郎

2022年7月15日より、第6代日本うつ病学会の理事長を拝命しました、杏林大学医学部精神神経科学教室の渡邊衡一郎と申します。2004年に創設された本学会において、初代理事長の上島国利先生、野村総一郎先生、神庭重信先生、尾崎紀夫先生、三村將先生と、これまで理事長をお務めになった先生方は学会創設の頃から本邦のうつ病診療において中心的な働きをして来られました。小生は、これら先生方のご尽力により学会が発展してきた頃に入会したいわゆる第2世代となります。これまでわが国におけるうつ病・双極性障害の臨床・教育・研究すべてにおいて牽引して来られた先生方の後を引き継ぐということで、重責に身の引き締まる思いです。本学会が培ってきた伝統を継承しつつ、さらなる発展のために会員の先生方と共に取り組んで参りたいと考えております。

精神科疾患の治療が目指すべきものとして「リカバリー」という考えがあります。近年は、症状、認知機能、社会機能の回復を表す「臨床的リカバリー」、就労や自立生活の実現を表す「社会的リカバリー」、そして当事者お一人お一人がなりたい自分を目指すプロセスである「パーソナルリカバリー」の3つのリカバリーからなると考えられています。本学会ではうつ病や双極性障害における「リカバリー」の達成のため、これまでも様々な側面から新たな試みや啓発活動を行って参りました。

「臨床的リカバリー」に関しては、2011年に双極性障害の治療ガイドライン、2012年にうつ病の治療ガイドラインを他の精神科領域に先駆けて公開し、望ましい治療法について紹介して参りました。2016年からは、多くの臨床家に対して、このガイドラインのより深い理解と有効活用のための普及・教育活動として、EGUIDE(Effectiveness of GUIdeline for Dissemination and Education in psychiatric treatment)プロジェクトを行って参りました。今後は、薬物療法をさらに発展させると共に、まだわが国に導入されていない、あるいは普及が不十分である効果的な精神療法の紹介や啓発、電気けいれん療法や経頭蓋磁気刺激療法を初めとした神経刺激療法の充実化など、うつ病や双極性障害の治療のさらなる向上のために取り組んで参ります。

「社会的リカバリー」の要素である就労に関しては、リワークを初め、産業の現場においてうつ病や双極性障害の理解を深める活動をして参りました。また、近年は特に「パーソナルリカバリー」を意識し、学会活動に当事者の方々をお招きして生のお声をお聞かせいただくなどなど、様々な側面から勉強をさせていただいています。また、この度大改定作業が始まりました「うつ病ガイドライン」では、臨床疑問を設定する段階から当事者やご家族の方のご意見を基にして作成しております。さらに、治療方針を当事者の方と共に考えていくプロセスとして共同意思決定(Shared Decision Making: SDM)が推奨されていますが、今後はSDMを実施する際に必要な情報提供資料(デシジョンエイド)も、本学会として提供していきたいと考えています。

また、本学会ではこれまでもメディカルスタッフのためのガイドラインなど、医師以外の医療従事者に対するガイドラインを発表して来ました。今後はその範囲をより拡大し、精神科医、心療内科医のみならず、看護師や心理師、薬剤師、作業療法士、精神保健福祉士などの医療関係者、そして、企業や学校、保健所などでこれら疾患に取り組まれておられる方々に対しても、有益な情報提供を行い、この疾患に従事するすべての方に参考にしていただける学会となるよう精進していく所存です。

うつ病や双極性障害で苦しい日々を送らざるを得ない方々は、残念ながら増加傾向にあります。そして、これらの疾患に対する注目は、かつて無い程高まっています。社会全体におけるこの疾患への理解が増し、当事者や周囲の方が早期に不調を察知したり、適切な対応を受けられるようになることで、一人でも多くの方が不幸な結末を迎えること無く、リカバリーの状態になっていただけたらと願っております。本学会の活動がその実現に貢献できるよう、引き続き取り組んで参る所存です。

本学会は、精神疾患に携わる様々な職種の方と共にあります。是非本学会の活動に関心を寄せていただき、共に活動していただければ幸いです。

2023年1月吉日
日本うつ病学会
理事長 渡邊 衡一郎

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