ご挨拶

■つなぐ つづける ささえあう

 日本エイズ学会、第26回学術集会の標語に、三つの言葉を選びました。
 エイズの治療であるHAART療法は、1995/96年に米国で効果を示してすぐに先進国に導入され、世紀を超えてようやく途上国にも普及されるようになりました。2003年の「3x5」、2006年の「普遍的アクセス」、そして2011年には「エイズ関連死ゼロ」のスローガンのもと、2015年までに150万人への治療拡大が目指されています。2005年以降は死者の数は確実に減少しています。
 予防も進展を見せ、サハラ以南を中心に新規感染者数は、1990年代の終わりから減少し始めています。しかし、日本を含む東アジアでは、数は少ないものの増加傾向が一向に衰えません。西欧や北米では、いったんは減少に転じましたが、最近では停滞から微増の傾向すら伺えます。

 エイズの治療と予防は、2000年代に入って充実し、いま述べた成果を挙げてきましたが、2009年以降、これを支えてきた世界経済に陰りが見え始めています。世界基金が新規案件募集を2014年まで先送りしたことが、それを如実に語っています。
 経済的窮状に直面することを契機に、世界でも日本でも、従来から言われている治療法の簡易化、効率化、予防の個別施策層への集中、メンタルヘルスや薬物使用への配慮、治療と予防の新たな連携など、この10年の対策の努力を一方では継承し、他方では革新的な新方策を提起することが求められています。これが「つづける」という言葉に込めた意味です。

 途上国に治療が普及するにつれて、この面で南北が連携すること、とくに日本がアジア太平洋諸国と取り組むことが必要とされてきています。アジアではARVの進展も、母子感染予防の普及も、全体としては30%台にとどまり、アフリカよりも遅れています。
 しかしすでに、結核やHCVへの重複感染や耐性の問題など多くの問題を私たちと共有してもいます。さらに予防では、アジアのMSMは欧米とは異なり、私たちとは通じる文化的文脈に直面し、闘っています。こうした日本と世界、わけてもアジアとの連携を「つなぐ」という言葉に持たせました。

 世界の人口の6割以上を擁するアジア太平洋の状況には、とくにいま世界が注目しています。その問題の解決に世界の知恵と力が求められています。来年2013年6月には、クアラルンプールでIAS2013(パソジェニシス会議)、11月にはバンコクで第11回ICAAP、そして2014年にはメルボルンでAIDS2014(国際エイズ会議)が開催されます。
 私たちも横浜会議と神戸会議を成功させましたが、それはなによりも医療者、科学者、コミュニティ、行政という異なるセクターの協力によるものです。日本エイズ学会を特徴付けるのも、この多様性と協調です。学会において基礎、臨床、社会の各セクターが支え合い、学会がエイズ政策をつくり支えていく、これが学会に求められていることであり、「ささえあう」という言葉に託された意味です。そして、第26回学術総会が、みなさまに支えていただけますようお願い申し上げます。

第26回日本エイズ学会学術集会・総会
会長  樽井 正義
(慶應義塾大学文学部 教授)


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