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第27回日本エイズ学会学術集会・総会
会長 満屋 裕明
熊本大学医学部・血液内科・膠原病内科・感染免疫診療部
国立国際医療研究センター・臨床研究センター

謹啓

皆様におかれましてはますます御清栄の事と心から御喜び申し上げます。

扨、私、この度第27回エイズ学会学術集会・総会を担当する様に命じられました。2013年11月末に熊本で開催の予定であります学術集会・総会はヒト免疫不全ウイルス (HIV) 感染症とエイズと戦う感染者・発症者、研究者、医師、看護師、社会活動家などを糾合して新規の研究成果を発表、情報を交換し、将来に向けて更に着実で大きな歩を進めるための重要な場でございます。

エイズという疾患の存在が初めて報告されて30年有余が過ぎました。HIV感染症/エイズの「火の手」の勢いが世界の医学・生物学等の叡智の前に「峠」を超えたとされる様になったとはいえ、2011年だけでも150万人の人々がこの感染症のために命を落としました。抗レトロウイルス薬を組み合わせて用いる多剤併用療法(combination antiretroviral therapy:cART)を武器とした私達の戦いが一部の前線で部分的な勝利を獲得してきているとはいえ、HIV感染症/エイズが日本と世界の人々の間での健康衛生の最も脅威的でかつ重要な喫緊の課題である事に疑いはありません。確かにcARTは、弛むことのない抗ウイルス薬開発の努力と科学的な臨床データの蓄積を経て、強力な臨床効果を発揮し、副作用が少なく、且つ服用しやすい治療法として成熟、発症者・感染者の臨床症状と生命予後は著しく改善されました。少なくとも本邦を始めとした先進工業国ではかつて「AIDS baby」と呼ばれた感染新生児は、継続的な努力の傾注が必要である事が自明とは言え、殆ど発生しなくなり、またcARTを早期に開始する事で、パートナーへの二次感染を96%予防できるという「感染予防効果」も証明されました(2011年のHPTN052 研究)。

ヒトレトロウイルスである HIVが分離・同定された頃、レトロウイルス感染症に化学療法は無用と考えられていました。レトロウイルスは標的細胞の遺伝子内に「潜り込む」ために、一旦感染したらレトロウイルスを細胞遺伝子から排除する事は不可能であるからです。しかもHIVは免疫不全・免疫異常をもたらすのみならず、ほぼ全ての臓器に障害を起こしてやがて感染者を死へと導くのです。私たちのグループは1987年、逆転写酵素を分子標的として逆転写酵素阻害剤(AZT)を開発、序でddI、ddCの臨床導入にも成功しましたが、忽ちにしてそれらの単剤での効果は一時的で、しかもHIVは比較的早期に薬剤耐性を獲得することが判明しました。しかし、AZTの認可から26年、cARTの抗ウイルス効果は長期的に安定した効果を発揮する様になり、また、耐性の発現をも著しく遅延させ得るようになりました。加えてウイルス学と免疫病態学などの進展、検査・予防・カウンセリング・啓発の努力があって新規のAIDS 発症者・HIV感染者数は世界の多くの地域で明らかに減少する傾向が得られています。

不十分としか言いようのないAZTの臨床効果と、当時としては記録的に高い薬価設定に、私は「どうか死なないで欲しい、もっと良い治療薬が開発されるから」という言葉だけを胸に抱きながら開発の努力を続けて参りました。そして今やHIV感染者にも非感染者のそれに近い寿命が得られる様になり、二次感染をも防止し得ることとなって、私たちは、来るべき世代を「HIV/AIDSなき世代(HIV/AIDS-free generation)」とできると確信するに至りました。無論「HIV/AIDSなき世代」の実現の道はとりわけ険しく、道のりも長く遠い事に疑いはありません。cARTも「完全な治療法」からはほど遠く、また高騰するcARTに関わる治療費は、限りある医療資源の公正な分配という挑戦からも自由ではありません。今こそ、私たちは新しい感染者を出さない、出させないという努力を一層強化しなければなりません。それでも私たちは今、「HIV/AIDSなき世代をめざす」という実現可能なゴールを、将来の世代に向ける大きな希望の松明を、高々と掲げ得るようになったという事を確認したいと思います。

第27回日本エイズ学会は、『HIV/AIDSなき世代をめざす (Toward the HIV-AIDS-free Generation)』ことを旨として、臨床・基礎・社会それぞれの分野での新しい研究成果を結集して、今も私達と世界の人々を脅かし続けるHIV/AIDS感染症を、更に一歩も二歩も追いつめる学術集会にして参りたいと考えております。皆様方の暖かい御支援をよろしくお願い致します。

謹白