第24回日本エイズ学会学術集会・総会

第24回日本エイズ学会学術集会・総会
会長 岩本 愛吉
東京大学医科学研究所
先端医療研究センター・感染症分野 教授

 

 わが国のエイズ発生動向調査は、厚生労働省に報告された数だけをまとめたものですが、HIV感染/エイズ患者数は確実に増加を続けています。一方、エイズ対策予算は流行の現実に対応するどころか、逆に縮小を続けるという、理解しがたい現象も起きています。これまでの経験や成果を踏まえつつも、対策の大きな枠組みをもう一度、新たな視点でとらえなおすべき時期にきていると言わざるを得ません。

 第24回日本エイズ学会学術集会・総会のテーマは「垣根を越えよう」です。HIV/エイズの流行がもたらす広範な影響を反映して、日本エイズ学会には幅広い分野の専門家が参加しています。HIV/エイズ分野におけるわが国最大の学術集会であり、3日間の会期の中で7つから8つのセッションが同時並行的に開催されることもしばしばありました。その結果、せっかく多様な参加者が集まっているのに、「基礎」「臨床」「社会」といったそれぞれの分野の専門家が、それぞれに関心のあるセッションのみを聞いて帰る、といった状態でもありました。こうした分野の垣根を乗り越えて、情報の共有と意見の交換がなされない限り、感染の増加が続く現状に有効に対処しうる方策は見えてこないでしょう。日本エイズ学会の参加者が、分野の垣根を越えて話し合う必要がある。これが「垣根を越えよう」の第一のメッセージです。

 もうひとつ重視したいのは、わが国の地理的、社会心理的な条件から感染症を考えてみることです。温帯に位置し、大陸とは地続きでない島国であること。これらは感染症対策上、恵まれた地理的条件です。一方で島国であることが心理的な鎖国状態を生み出し、外から来るものの排除を感染症対策の基本とするような発想の土壌となりやすい、という弱点も抱えています。

 「垣根を越えよう」の二番目のメッセージは、「国境を越えて、アジア、世界の人たちと情報を共有しよう」ということです。国の立ち位置や分野を超えてお互いに議論し、これからの流行に立ち向かう。国境や分野の違いから人の心の中まで、エイズ対策を妨げ、HIV感染の拡大要因となる垣根はさまざまなかたちで存在します。その垣根をいますぐ取り除くことは困難であったとしても、乗り越える努力は可能です。

 第24回日本エイズ学会学術集会・総会では、その試みの一つとして3日間の会期中、参加者全員が一つの会場に集まって聞くことができるプレナリーセッション(全体会合)を毎日、設けたいと考えています。それぞれの分野の人たちが、何を異分野の人たちに知ってもらいたいか。この点に焦点をあて、テーマ案を選定する作業を進めています。

 また、最終日には1時間程度の「まとめのセッション」の開催を検討しています。基礎、臨床、社会の分野ごとに、1人ずつのラパトア(報告者)が各分野のプログラムの議論の内容を集約し、1人15分程度で報告します。参加者はこのまとめのセッションにより、3日間の学会の中で、何が課題とされ、どのような議論が展開されたのか、全体像を把握することが可能になります。

 「プレナリー」と「まとめのセッション」によって、プログラム構成としても垣根を越える仕組みを用意したい。そのように考えて準備を進めています。学会参加という垣根を越え、たくさんの方が議論に加わることで、新たなエイズ対策の動きが生み出されていくことを期待しています。

 

2010年2月1日