日本妊娠高血圧学会|妊娠中毒症から妊娠高血圧症候群へ Japan Society for the Study of Hypertension in Pregnancy

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妊娠高血圧腎症(preeclampsia)、子宮内胎児発育不全に対するアスピリン予防投与の用量 —Systematic reviewとmeta-analysis—

妊娠高血圧腎症と胎児発育不全は、近年どちらも妊娠初期の胎盤形成不全に基づくplacental ischemic diseaseという概念でその病態の説明がなされています。これらの疾患に対する低用量アスピリンの効果に関しては、これまでいくつかのstudyでその有効性が報告されています。本文献は、そのmeta解析を行った研究であり、100-150mgの連日アスピリン投与を妊娠16週までに行うことで、疾患発症の抑制効果が認められるという結果となっています。現在、ハイリスク症例に対し、妊娠11-14週から150mgのアスピリン予防投与を行う他施設共同研究(ASPRE study)が行われており、そのプロトコールがBMJで発表されています。
詳細はこちらをご参照ください。

最新文献のご紹介

妊娠高血圧症候群に関する最新文献を当学会幹事がご紹介します。

掲載年月 2017.2
Title The role of aspirin dose on the prevention of preeclampsia and fetal growth restriction: systematic review and meta-analysis.
日本語タイトル 妊娠高血圧腎症(preeclampsia)、子宮内胎児発育不全に対するアスピリン予防投与の用量—Systematic reviewとmeta-analysis—
著者 Roberge et.al
ジャーナル Am J Obstet Gynecol
掲載年月 2016.8
Title Perinatal and Hemodynamic Evaluation of Sildenafil Citrate for Preeclampsia Treatment: A Randomized Controlled Trial
日本語タイトル 妊娠高血圧症候群に対するシルデナフィル投与
著者 Alberto Trapani Jr, et al.
ジャーナル Obstet Gynecol.
掲載年月 2016.6
Title Sequential plasma angiogenic factors levels in women with suspected preeclampsia.
日本語タイトル 妊娠高血圧腎症の妊婦の血漿angiogenic factorの推移
著者 Kedak Baltajian, et al.
ジャーナル Am J Am J Obstet Gynecol.
掲載年月 2016.( pii: S0015-0282(16)61037-3. doi: 10.1016/j.fertnstert.. Epub ahead of print)
Title Hypertensive pathologies and egg donation pregnancies: Results of a large comparative cohort study
日本語タイトル 妊娠高血圧症候群と卵子提供妊娠:大規模比較コホート研究の結果
著者 Hélène Letur, et al.
ジャーナル Fertility and Sterility.
掲載年月 2016 Jun 20. [Epub ahead of print]
Title Prehypertension in Early Pregnancy: What is the Significance?
日本語タイトル 妊娠初期のprehypertension:妊娠経過にどんな影響を与えるか?
著者 Rosner JY, et al.
ジャーナル Am J Perinatol
掲載年月 2016.6
Title Less-Tight versus Tight Control of Hypertension in Pregnancy
日本語タイトル 妊娠中の高血圧:less-tight vs. tight control
著者 Laura A. Magee, et.al.
ジャーナル N Engl J Med 372;407-17, 2015.
掲載年月 2016.3
Title Metformin versus Placebo in Obese Pregnant Women without Diabetes Mellitus
日本語タイトル DMのない肥満妊婦に対するメトホルミン投与の影響
著者 Argyro Syngelaki, et.al.
ジャーナル N Engl J Med 2016;374:434-43.
掲載年月 2016.1
Title Predictive Value of the sFlt-1:PlGF Ratio in Women with Suspected Preeclampsia
日本語タイトル preeclampsia(PE)発症予知に関するsFlt-1/PlGF 比
著者 Harald Zeisler, et.al.
ジャーナル N Engl J Med 374;13-22, 2016.
掲載年月 2015.7
Title Immediate delivery versus expectant monitoring for hypertensive disorders of pregnancy between 34 and 37 weeks of gestation (HYPITAT-II): an open-label, randomised controlled trial
日本語タイトル 妊娠34-37週における高血圧妊婦の管理方針、早期娩出か待機的管理か(HYPITATーⅡ) :オープンラベルのrandameized controlled trial
著者 Kim Broekhuijsen,
ジャーナル Lacet. 2015 Jun 20;385(9986):2492-501
掲載年月 2015.6
Title Expression of Myostatin in Intrauterine Growth Restriction and Preeclampsia Complicated Pregnancies and Alterations to Cytokine Production by First-Trimester Placental Explants Following Myostatin Treatment.
日本語タイトル 子宮内胎児発育遅延と妊娠高血圧症候群におけるミオスタチンの発現とミオスタチン処置に伴う第1三半期の胎盤移植片によるサイトカイン産生の変化
著者 Peiris HN,
ジャーナル Reprod Sci. 2015 Oct;22(10):1202-11
掲載年月 2015.5
Title Prediction and prevention of early onset pre-eclampsia: The impact of aspirin after first trimester screening
日本語タイトル 早発型妊娠高血圧腎症の予知と予防:初期スクリーニング後のアスピリン治療の影響
著者 Felicity Park
ジャーナル Ultrasound Obstet Gynecol. 2015 Oct;46(4):419-23.
掲載年月 2014.11
Title Concentrations of human chorionic gonadotrophin in very early pregnancy and subsequent pre-eclampsia: a cohort study
日本語タイトル 妊娠のごく初期のhCG濃度とその後の妊娠高血圧腎症の発症 : cohort研究
著者 B.O.Asvold,
ジャーナル Human Reprod 29(6): 1153-1160, 2014
掲載年月 2014
Title The maternal health clinic: an initiative for cardiovascular risk identification in women with pregnancy-related complications
日本語タイトル 母体のヘルスクリニック : 妊娠関連の合併症を有した女性の心血管系リスクの同定とその後の早期戦略
著者 Cusimano, MC
ジャーナル Am J Ob Gy vol.210. 438.e1–438.e9, 2014.
掲載年月 2014
Title Could 3D placental volume and perfusion indices measured at 11-14 weeks predict occurrence of preeclampsia in high-risk pregnant.
日本語タイトル 母妊娠11-14週での3D超音波を用いた胎盤重量と血流計測は妊娠高血圧腎症ハイリスク妊婦の予測になる
著者 Hashish N
ジャーナル J Matern Fetal Neonatal Med. 2014 Jul 28:1-5.
掲載年月 2014
Title High risk human papillomavirus at entry to prenatal care and risk of preeclampsia.
日本語タイトル 妊娠初期のHPVハイリスク陽性妊婦と妊娠高血圧腎症のリスク
著者 McDonnold M
ジャーナル Am J Obstst Gynecol 2014;210:138.e1-5

2017年4月

妊娠高血圧腎症と胎児発育不全は、近年どちらも妊娠初期の胎盤形成不全に基づくplacental ischemic diseaseという概念でその病態の説明がなされています。これらの疾患に対する低用量アスピリンの効果に関しては、これまでいくつかのstudyでその有効性が報告されています。本文献は、そのmeta解析を行った研究であり、100-150mgの連日アスピリン投与を妊娠16週までに行うことで、疾患発症の抑制効果が認められるという結果となっています。現在、ハイリスク症例に対し、妊娠11-14週から150mgのアスピリン予防投与を行う他施設共同研究(ASPRE study)が行われており、そのプロトコールがBMJで発表されています。

背景
preeclampsia(PE)と胎児発育不全は、周産期死亡の大きな原因であり、生存児もハンディキャップを負う可能性がある。これまでにPE、severe PE、子宮内胎児発育不全のハイリスクの妊婦では、予防的アスピリン投与がその発生率を減少させるといういくつかのrandomized controlled study(RCT)がなされている。しかし、適切なアスピリンの用量などについては明らかとなっていない。

目的
PE、重症PE、胎児発育不全に対する予防投与としての適切なアスピリン量を検討すること。

研究デザイン
妊娠中に、連日のアスピリン内服かプラセボ(または無治療)のRCTについてメタアナリシスを行なった。Studyは2015年までに行われたものをMEDLINE、Embase、Web Science、Cochraneから抽出した。データが必要な場合は、著者に連絡して情報を収集した。PE、severe PE、子宮内胎児発育不全についてのrelative risk(RR)を計算した。用量効果については、無作為抽出メタ回帰分析を行なった。さらに妊娠16週までに初回投与を行った群と、16週を超えてから投与開始した群に分類して分析した。

結果
45のRCTから、20909人の妊婦で、連日50-150mgのアスピリン内服を行っていた妊婦に関しての分析を行った。妊娠16週までにアスピリン内服を始めたものではPEを有意に予防し、その効果は用量に依存していた(RR 0.57, 95%CI 0.43-0.75;p<0.001;R2,44%;p=0.36)。重症PE、子宮内胎児発育不全でも同様の結果であった(重症PE RR 0.47; 95%CI 0.26-0.83; p=0.009; R2,100%;p=0.008, 胎児発育不全 RR 0.56; 95%CI 0.44-0.70; p<0.001; R2,100%; p=0.044)。以上より、3群ともアスピリンの用量が多い方が有意にその発症を抑制することができた。ハイリスクバイアスのstudyを除いた上でも同様の結果であった。16週までにアスピリンを始めた場合は、PEの予防効果は認められたが、用量依存の効果は認めなかった。16週を超えて投与を始めた症例では、重症PEや子宮内胎児発育不全例での有意な予防効果は認められなかった。

結論
PEや胎児発育不全の抑制を目的とした妊娠初期からのアスピリン予防投与は、用量依存性の効果が認められた。妊娠16週を超えてのからの投与は、PE、重症PE、胎児発育不全いずれも効果が認められないか、わずかな効果を認めるのみであった。これらの結果からも、アスピリン予防投与を行うべきハイリスク症例は妊娠初期から抽出するべきである。

<文責:川端 伊久乃>

2016年10月

Perinatal and Hemodynamic Evaluation of Sildenafil Citrate for Preeclampsia Treatment: A Randomized Controlled Trial
Alberto Trapani Jr, et al.
Obstet Gynecol 2016;128:253–9

妊娠高血圧症候群の予防や治療にはさまざまな薬剤がトライアルされていますが、今回はそのうちの一つであるシルデナフィルを紹介します。シルデナフィルはPDE5(ホスホジエステラーゼ5)の選択的阻害剤です。細胞内Ca2+濃度を低下させ血管平滑筋を弛緩させることによる胎児胎盤循環の改善を介した胎児発育促進効果や、NO産生障害に起因する血管内皮障害の改善による妊娠高血圧症候群の重症化予防効果が期待されています。

背景
妊娠高血圧症候群は、免疫不適合や遺伝的不一致などに始まる胎盤の形成不全がangiogenic factor(sFlt1・PlGF)のバランスをくずし、平滑筋におけるNO応答不全をもたらすと考えられている。PDE5阻害剤は、NO非依存性にcGMPを増加させることで血管拡張作用を有し、妊娠高血圧症候群治療にも期待されている。

目的
シルデナフィル投与が妊娠高血圧症候群患者における胎児胎盤循環を改善し、妊娠延長効果をもたらすかを検討した。

研究デザイン
プラセボ対照、ランダム化二重盲検試験。妊娠24週から33週で妊娠高血圧症候群と診断した単胎妊婦100人に、50mgのシルデナフィルもしくはプラセボを8時間ごと経口投与した。主要評価項目はランダム化から分娩までの妊娠延長期間とした。副次評価項目はドプラーによる子宮動脈、臍帯動脈、中大脳動脈のpulsatility index、母児の合併症、新生児の有害事象とした。

結果
2013年6月から2015年10月の間に、50人ずつの患者を各郡に割り付けた。両群間で妊娠高血圧症候群の重症度に差は認めなかったが、シルデナフィルを投与群の方がプラセボ群と比べて妊娠期間は平均4日間長く (14.4 days, 95% confidence interval [CI] 12.5–16.6 days compared with 10.4 days, 95% CI 8.4–12.3 days, P=.008)、また子宮動脈や臍帯動脈のpulsatility indexの改善を認めた割合も高かった (22.5% and 18.5%, compared with placebo 2.1% and 2.5%, P<.001)。ランダム化前と24時間後の母体血圧の比較ではシルデナフィル投与群でのみ低下を認めた (sildenafil: 100.3±5.6 mmHg compared with 116.4±5.1 mmHg, P<.05; placebo: 110.6±6.2 mmHg compared with 114.7±6.5 mmHg, P=.21)。新生児予後に差は認めなかった。

結語
シルデナフィル投与は、妊娠高血圧症候群患者における血圧コントロール改善、子宮胎盤および胎児胎盤循環を改善することで、妊娠期間を延長することができた。今後はより妊娠早期からの投与開始による評価が望まれる。

<文責:味村>

2016年9月

Sequential plasma angiogenic factors levels in women with suspected preeclampsia.
Kedak Baltajian,et. al
Am J Obstet Gynecol. 2016 215:89.e1-89.e10.

日本周産期・新生児医学会で斎藤滋教授が招待されたKarumanchi先生の論文です。管理入院となった妊娠高血圧腎症妊婦のangiogenic factor(sFlt1・PlGF)の推移を見ています。臨床現場でこれらに対応するは困難かもしれませんが、トピックスとして取り上げさせていただきました。今後、このようなデータをもとにどのようにpreeclampsiaを予防していくかが課題となっていくと思われます。

背景
angiogenic factorの循環動態における変化はpreeclampsia(PE)の診断に関連がある。また、3rd trimester期における周産期の有害事象(不利な転帰)にも関連がある。

目的
preeclampsiaの評価のため入院となった患者の血漿中のangiogenic factorのレベルの解析を行うことを目的とした。

研究デザイン
ボストンにあるBeth Israel Deaconess Medical Centerに、37週以前にpreeclampsiaの評価のため入院した単胎妊娠女性を対象とした。
血液検査は入院時と最初の3日間、以降分娩まで週1回行った。子宮胎盤血流及び臍帯血流の評価のため超音波検査を入院時(48時間以内)と毎週(採血日から24時間以内)行った。妊婦数、入院中の経過、分娩方法、高血圧の病歴、妊婦の有害事象(肝逸脱酵素の上昇、血小板数の低下、肺浮腫、脳出血、けいれん、急性腎障害、母体死亡)、胎児・新生児の予後不良転帰(低出生体重児、臍帯血流の異常、胎児死亡、新生児死亡)を記録した。
angiogenic factor(sFlt1・PlGF)の循環動態を分娩後にautomated platform in a single batchと盲検法で測定した。

結果
研究期間の間で100人の女性のデータを解析でき、43人が転帰不良群であった。
100人中53人がPEの診断、11人が高血圧症(HTN)、27人が加重型妊娠高血圧腎症(superimposed preeclampsia)、9人が妊娠高血圧(gestational hypertension)であった。予後不良群は著明に妊娠週数が早く、また入院時の血小板数が低下しておりALTが(正常範囲内ではあるが)高値であった。BMIや人種に差はなく、入院時の収縮期・拡張期血圧においても、予後の転帰に関係は見られなかった。入院後の経過として、予後不良群では、収縮期・拡張期血圧が高かった。胎児肺成熟のためにベタメタゾン投与を行い、分娩時の妊娠週数は早く、37週以前に分娩となった割合は著明に高かった(すべて有意差ありp<0.01)。またこれらでは出生体重が小さく、胎盤重量も小さかった。
入院時、予後不良群ではsFlt1はより高値(9,136 vs. 5,595 pg/ml)で、またPlGFはより低値(49 vs. 125pg/ml)であった。またsFlt1/PIGFは予後不良転帰群ではより高値(205.9 vs 47.5)であった。
入院時から分娩に至るまでのsFlt1濃度の1日変化量は予後不良群491に比して予後良好転帰群81.3であった。同様にsFlt1/PlGFの1日変化量は15.1に比して2.7であった。PlGFの変化は両群間に差はなく、これはsFlt1/PlGFはsFLt1の変化によるものといえる。入院時sFlt1/PlGFは入院時子宮動脈RIと関連があるだけでなく、分娩時子宮動脈RIと関連している。子宮動脈RIが異常値(RI>0.70)であり、かつsFlt1/PlGFが異常値(≧85)である割合は高かった。sFlt1/PlGFが高値であれば明らかに分娩に至るまでの日数が短いということがわかる。入院から分娩までの平均日数はsFLT1/PIGF≧85は6日である一方、sFlt1/PlGF <85は14日である。sFlt1/PlGF≧85の72%が1週間以内で、91%が2週間以内で分娩となっている。sFlt1/PlGF<85の47%が1週間以内で、57%が2週間以内で分娩となっている。

結語
Preeclampsiaで入院した妊婦のうち、予後不良群はsFlt1/PlGF比がより入院時に高値であり、分娩まで上昇していく。sFlt1/PlGF比が高値であればより早く分娩に至る。これらのdataはpreeclampsiaの血管因子のアンパランスを是正すれば妊娠期間の延長を図ることができるという仮説をサポートする。

<文責:牧野>

2016年8月

1)Hypertensive pathologies and egg donation pregnancies: Results of a large comparative cohort study
Hélène Letur, et al. Fertility and Sterility 2016; Epub ahead of print

現在、日本では卵子提供によるARTは認可されていません。よって卵子提供治療を希望される患者は、海外で治療を受け妊娠成立ののちに帰国し日本で妊婦健診・分娩されています。このような患者は今後増えることが予想されることとから、本論文が経験の少ない我々にとって卵子提供治療後妊娠の管理の一助となればと思い紹介します。
本論文は、卵子提供治療後妊娠に関する類似の報告と比べ対象症例数が多く、また対象の約半数が35歳未満で対象年齢の偏りが少ないといった点で有意義な論文と思われます。

背景
1984年に初めて報告されて以来、ARTの1つの手段として「卵子提供(egg donation: ED)」が広く用いられるようになってきている。European Society of Human Reproduction and Embryology Registryの報告によると、EDによる治療サイクル数は、2007年は15,028サイクルであったのに対し、2011年は30,198サイクルと増加傾向である。同時に、一般集団や自身の卵子によるART妊娠群と比較しEDによるART妊娠群では合併症(特に重症高血圧)が多いとの報告が多数だされた。しかしその多くは対象症例数が少なく、対象症例に年齢などの偏りがあるなどのlimitationがあった。そこで今回、EDによるART妊娠は自身の卵子によるART妊娠と比較し妊娠高血圧症候群のハイリスクであるかどうかを目的に、前述のlimitationをクリアできるようなcomparative cohort studyにより検討した。

方法
EDによるART妊娠群217名とコントロール(自身の卵子によるART妊娠)群363名で、その後の妊娠高血圧症候群の発症率を比較した。両群は妊娠7-8週の時点で妊娠週数、経産数、cycle type(新鮮/凍結)、母体年齢をマッチさせた。なお、母体年齢は全て45歳以下である。

結果
2群の背景(母体年齢、母体BMI、初産率、流産既往率、初妊娠率、移植卵数、凍結卵移植率)にはいずれも有意差はなかった。母体年齢の中央値は両群とも34.5歳であった。コントロールと比較し、ED妊娠群では妊娠高血圧症候群(17.8% vs 5.3%)、妊娠高血圧腎症(11.2% vs 2.8%)、子癇(1.8% vs 0.0%)を有意に高頻度に合併していた。多変量解析の結果、妊娠高血圧症候群の発症を目的変数とすると、EDのオッズ比 3.92(95%CI: 1.93-7.97)、母体年齢のそれは1.08(95%CI: 1.00-1.16)であることが分かった。

考察
EDによるART妊娠における妊娠高血圧症候群の発症リスクは、自身の卵子によるART妊娠の約3倍であることが示された。つまり、高年妊娠でなくてもEDによるART妊娠は妊娠高血圧症候群の高リスク因子であり、このリスクを患者夫婦には十分に説明し、また妊娠した際にはintensive careを強く推奨する。

<文責:小出>

2)Prehypertension in Early Pregnancy: What is the Significance?
Rosner JY, et.al Am J Perinatol 2016.June 20[Epub ahead of print]

「高血圧の診断基準や妊娠高血圧症候群の診断基準はみたしていないものの、血圧が正常よりやや高め」な妊婦の周産期予後のデータはほとんど知られていません。そのような妊婦に関し、2015年のAm J Perinatol.誌に興味深い報告が掲載されました。比較的遭遇する機会が多いケースと思われますので、日常診療の一助になればと思い、紹介致します。
尚、ここに出てくるJNC(Joint National Committee)-7分類は、欧米で広く使われている高血圧の分類で、pre-HTNは収縮期血圧120-139 mmHgまたは拡張期血圧80-89 mmHgに相当します。

目的
妊娠中の高血圧は母児の予後に大きな影響を与えることはよく知られているが、妊娠初期のpre-hypertension(pre-HTN)が妊娠に与える影響に関しては限られたデータしかない。そこで妊娠初期のpre-hypertension(pre-HTN)が妊娠に与える影響を明らかにするため本研究を行った。

方法
377人の単胎妊婦を対象に、妊娠20週未満でpre-HTNを認めた妊婦の妊娠予後をretrospectiveに調べた。対象妊婦の最高血圧をJNC-7の分類に従って分類したところ、コントロール群(正常血圧)261人(69.2%)、pre-HTN群95人(25.2%)、CHTN群(高血圧の基準を満たす群)21人(5.6%)に分類された。各群間における妊娠中の高血圧、他の周産期合併症、新生児予後を、χ二乗検定、t検定、Mann-WhitneyのU検定を用いて比較した。

結果
他の群と比較して、pre-TNH群は妊娠中の高血圧(odds ratio [OR]; 4.62、confidence interval [CI];2.30–9.25、p<0.01)、他の周産期合併症(OR;2.10、 95% CI;1.30–3.41、p<0.01)、新生児のNICU入院(OR;2.21、95% CI;1.14–4.26、p=0.02)、新生児敗血症(OR;6.12、95% CI;2.23–16.82、p<0.01)、他の新生児合併症(OR;2.05、95% CI;1.20–3.49、p<0.01)のいずれも正常群より高リスクであった。

結論
現在、pre-HTN妊婦は正常妊婦として分類されているが、彼らはむしろ高血圧妊婦に近い特徴を有することがわかった。妊娠初期のpre-TNH妊婦は、周産期合併症が起きる可能性が通常より高く、注意を要する。

<文責:野平>

2016年6月

このたびThe New England Journal of Medicineにおいて、妊娠中の高血圧の降圧に関してless-tight controlした場合とtight controlした場合とで,妊娠合併症への影響が異なるかどうかを検討したRCT論文が発表されました。以下に概要を示しますが、今後の妊娠中の高血圧管理に重要な論文と思われますので是非originalを御一読ください。

Less-Tight versus Tight Control of Hypertension in Pregnancy. Magee LA, et.al. N Engl J Med 372; 402-17, 2015.

背景
妊娠中の高血圧をless-tight controlした場合とtight controlした場合とで,妊娠合併症への影響が異なるかどうかは明らかにされていない。

方法
妊娠14週0日~33週6日の妊婦で,蛋白尿を伴わず,妊娠前から高血圧または妊娠高血圧を有し,外来拡張期血圧が90~105 mmHg(降圧薬を使用している場合は85~105 mmHg)で,胎児が生存している例を対象に,多国間多施設共同非盲検試験を行った。妊婦をless-tight control(目標拡張期血圧100 mmHg)とtight control(目標拡張期血圧85 mmHg)に無作為に割り付けた。複合主要評価項目は,妊娠中の胎児死亡または生後28日間における48時間を超える高度新生児ケアとした。副次的評価項目は,産後6週あるいは退院までの何れか遅い時期までに発生した重篤な母体合併症とした。

結果
987例が解析に供された。74.6%が妊娠前からの高血圧であった。平均拡張期血圧は,less-tight control群の方が4.6 mmHg (95% CI: 3.7 – 5.4)高値であったが,主要評価項目の比率については,less-tight control群とtight control群とで同程度であった(各々,31.4%と30.4%,調整オッズ比1.02 (95% CI: 0.77 – 1.35)。また,重篤な母体合併症の比率も同程度であった(各々3.7%と2.0%,調整オッズ比1.74 (95%CI: 0.79 - 3.84)。重症高血圧(収縮期血圧160 mmHg以上または拡張期血圧110 mmHg以上)は,less-tight control群では40.6%であったが,tight control群では27.5%と,tight control群の方が有意に低率であった(P <0.001)。

結論
妊娠中の高血圧のless-tight controlは,母体の重症高血圧の割合がtight control群と比較して有意に高率であったが,妊娠中の胎児死亡,高度の新生児ケア,母体合併症全般のリスクには両群間で有意差を見出せなかった。

さて、今年度発刊された当学会編集の「妊娠高血圧症候群の診療指針2015の中では妊娠高血圧症候群における降圧の範囲として以下のように記載されています。

Ⅳ妊婦管理
  5.降圧薬療法
      CQ2 妊娠高血圧症候群における降圧の範囲は?

推奨1. 拡張期血圧を90~100 mmHgの範囲にとどめることを目標とする。(グレードC)
推奨2. 収縮期血圧が155~160 mmHgを超えないことを目標とする。(グレードC)
推奨3. 平均血圧で15~20%以内の降圧にとどめることを目標とする。(グレードC)

本研究から,tight control(目標拡張期血圧85 mmHg)であっても妊娠分娩予後に大きな差が無く,むしろ,重症高血圧の割合が減少したことを考慮すると,降圧目標は拡張期血圧<90 mmHgでもいいのかもしれません。

<文責:大口>

2016年3月

このたび、DMのない肥満妊婦(BMI35以上)に対して妊娠12~18週から分娩までメトホルミンを投与したところ、対照群に比較して母体の体重増加が抑制され妊娠高血圧腎症の発症も大幅に減少させたという論文が掲載されました。日本でBMI35以上(160cmだと90kgくらい)の妊婦はそう多くはありませんが、最近増加傾向にあります。中々に面白い論文ですので、興味のあるかたはoriginalを御一読ください。

Metformin versus Placebo in Obese Pregnant Women without Diabetes Mellitus Argyro Syngelaki, et.al. N Engl J Med 2016;374:434-43.

背景
肥満は、妊娠予後不良のリスクを増加させる。しかし肥満妊婦に対して生活様式の介入だけでは、必ずしも予後改善とは結びついていない。メトホルミンはインスリン感受性を改善し、そして妊娠糖尿病患者においてはメトホルミンを服用しない妊婦に比較して体重増加を抑制することが知られている。そこで今回、メトホルミンの肥満患者に対する妊娠予後への影響について検討した。

方法
糖尿病のないBMI35以上の妊婦を対象とし、二重盲検プラセボコントロール試験を行った。無作為にメトホルミン群とプラセボ群にわけて12週から18週まで各々1日3g内服させた。BMIは試験開始時に計算した。第一の観察項目は新生児出生体重のZスコア0.3SDの減少である。Zスコア0.3SDは、LFD児の発症率20%から10%へと50%減少に相当する。その他の観察項目としては、母体の妊娠中の体重増加量、妊娠糖尿病発症率、妊娠高血圧腎症(PE)発症率など、新生児の予後不良である。ランダム化にはコンピューターによる乱数表を使用した。解析にはintention-to-treat 分析を用いた。

結果
50人が同意取得の段階で脱落し、最終的にメトホルミン群202人、プラセボ群198人が対象となった。
その結果、新生児のz scoreはメトホルミン群0.05(4分位間領域-0.71~0.92)、プラセボ群0.17(4分位間領域-0.62~0.89)で、両群間に有意差はなかった(P = 0.66)。母体の妊娠中の体重増加量はメトホルミン群4.6 kg増(4分位間領域1.3~7.2 kg)、プラセボ群6.3 kg増(4分位間領域2.9~9.2 kg)、メトホルミン群が有意に少なかった(P<0.001)。PEの発症率はメトホルミン群3%、プラセボ群11.3%、オッズ比0.24で明らかにメトホルミン群で発症が少なかった(P = 0.001)。GDMの発症率(メトホルミン群12.4%、プラセボ群11.3%、児のLFD率(メトホルミン群16.8%、プラセボ群15.4%)、新生児の予後不良例(分娩外傷、アプガースコア、低血糖、高ビリルビン血症、NICU入院率)の発症率については有意差がなかった。

考察
BMI35以上の糖尿病のない女性に対する妊娠中のメトホルミン投与は、母体の新生児の体重を減少させることなく母体の体重増加を抑制し、PEの発症率も減少させた。
さて、今回の研究はBMI35以上の糖尿病のない妊婦に対すメトホルミン投与が、妊娠高血圧腎症の発症率を大幅に減少させたという大変興味深いものです。メトホルミンは、ビグアイナイド系インスリン抵抗性改善薬に分類され、クロミフェン抵抗性PCOSに対して排卵誘発目的にクロミフェンとの併用で使用されます。また排卵後も継続投与することで、流産率減少に寄与するとの報告もあります。さらに妊娠糖尿病患者に使用するとインスリンに劣らない周産期予後が得られたとの報告もあります。しかしながら、現状では妊婦への投与は禁忌となっており、今後データの蓄積が待たれます。これだけ顕著にPEの発症を減少させたのであれば、将来的にはPE予防薬として大いに有望?

<文責:田中>

2016年1月

このたびThe New England Journal of Medicineにおいて、preeclampsia(PE)の予知に関してsFlt-1/PlGF 比が38以下では1週間以内でのPE発症の可能性は低く、38を超えた場合には4週間以内のPE発症の可能性が高まると言う論文が発表されました。以下に概要を示しますが、今後のPE予知に重要な論文と思われますので是非originalを御一読ください。

Predictive Value of the sFlt-1:PlGF Ratio in Women with Suspected Preeclampsia Harald Zeisler, et.al. N Engl J Med 374;13-22, 2016.

背景
妊婦において、可溶型fms様チロシンキナーゼ1(以下sFlt-1)と胎盤増殖因子(PlGF)の比は妊娠高血圧腎症(preeclampsia, PE)発症の前に上昇する。しかし、PEが疑われる妊婦におけるsFlt-1/ PlGF比の的中率については明らかではない。

方法
そこで18歳以上の14カ国、1273人の女性を対象とし、PEの発症が疑われる妊娠24週0日~36週6日の単胎妊娠の女性において、血清sFlt-1/PlGF比とその後PEが発症するか否かとの関係について確認するため、2段階での前方視的観察研究を行った。主な目的は、sFlt-1/PlGF比低値がその後1週間以内のPE発症しないことを予測できるか否か、sFlt-1/PlGF比高値が4週以内のPE発症を予測するか否かを評価することである。

結果
その結果、初めの500人の女性におけるコホート研究では、sFlt-1/PlGF比38がカットオフ値として有用な適中率を持つことが確認された(PE発症34名、発症無し466名)。
さらに行われた550人の女性における確認検査において、sFlt-1/PlGF比 38以下は、その後の1週間でPEを発症しないことに関して陰性適中率99.3%(95%信頼区間[CI]、97.9~99.9)、感度80.0%(95%CI、51.9~95.7)、特異度78.3%(95%CI、74.6~81.7)であった。
一方、sFlt-1/PlGF比38を超えた場合には、以後4週間以内にPEと診断されることに関して陽性適中率36.7%(95%CI、28.4~45.7)、感度66.2%(95%CI、54.0~77.0)、特異度83.1%(95%CI、79.4~86.3)であった(PE発症71名、発症無し479名)。

考察
臨床的にPEが疑われる妊婦において、sFlt-1/PlGF比 38以下は短期的にPEを発症しないとの予測に有用である。

さて、今年度発刊された当学会編集の「妊娠高血圧症候群の診療指針2015」の中ではsFlt-1とPlGFによる妊娠高血圧症候群の発症予知として以下のように記載されています。

7.妊娠高血圧症候群軽症の発症予知法
 2.血液尿検査
  ④血管新生関連因子
血管新生因子である血管内皮細胞増殖因子VEGF、胎盤増殖因子PlGFはVEGF receptor-1を介して細胞内に作用するが、この作用は可溶型fms様チロシンキナーゼ1(sFlt-1)によって阻害される。sFlt-1は絨毛細胞の脱落膜細胞への侵入を抑制するとともに、血管内皮細胞を障害する。妊娠高血圧腎症を発症した妊婦ではsFlt-1が高値となっていることが報告されたが、その後米国の大規模な前方視的スタディにより、血清sFlt-1濃度は妊娠高血圧症候群発症5週間前から上昇することが示された。一方、PlGF血中濃度は妊娠高血圧腎症発症に先立つ数週間で低値をとることが示されている。妊娠初期の血清sFlt-1とPlGF濃度を組み合わせることで、本症のハイリスク群を抽出できると報告されている。
今回の論文では、上記太線部分についてかなりclearにcutoff値を提案しています。近い将来sFlt-1/PlGF比が臨床応用されるようになれば、PE発症予知に極めて有効なものとなることが期待されます。

<文責:田中>

2015年7月

このたびLancet誌において、Late preterm(妊娠34週~妊娠36週)における軽症PIHの管理について早期娩出か待機的管理かについて検討した論文が発表されました。以下に概要を示しますが、極めて重要な論文と思われますので是非originalを御一読ください。

Immediate delivery versus expectant monitoring for hypertensive disorders of pregnancy between 34 and 37 weeks of gestation (HYPITAT-II): an open-label, randomised controlled trial
Kim Broekhuijsen, et.al. Lacet. 2015 Jun 20;385(9986):2492-501

背景
late pretermの時期(34週以降37週未満)における高血圧妊婦(PIH、慢性高血圧)の管理方針についてのエビデンスはほとんどない。そこで「直ちに分娩」と「待機的管理」の各々の母体および新生児予後について比較検討した。

方法
オランダの7つの研究施設と44の非研究施設の病院で、非盲検、無作為比較試験を行った。重症症例(収縮期血圧170mmHgまたは拡張期110mmHg以上、蛋白尿5g/日以上、尿量500ml/日未満、HELLP症候群)をのぞく高血圧妊婦を、①24時間以内に誘発分娩または帝切を行う群(直ちに分娩群)と②37週まで妊娠延長を図る待機的管理群にランダムに振り分けた。主な評価項目は母体の予後不良(血栓塞栓性疾患、肺水腫、子癇、HELLP症候群、早剥、妊産婦死亡)と新生児呼吸窮迫症候群であり、Intention-to-treat 分析によって評価した。

結果
2009年3月~2013年2月までの間に897人の妊婦が対象となり、うち703人が「直ちに分娩群(n=352)」と「待機的管理群(n=351)」に無作為に割付けされた。 母体予後不良は、「直ちに分娩群」では352人中4人(1.1%)であったのに対し、「待機的管理群」では351人中11人(3.1%)であった(相対リスク0.36、p=0.069)。新生児の呼吸窮迫症候群は、「直ちに分娩群」では352人中20人(5.7%)に発症したのに対し「待機的管理群」では351人中6人(1.7%)に発症していた(相対リスク3.3、p=0.005)。母体死亡、周産期死亡は起こらなかった。

解釈
late preterm の時期の非重症例の高血圧妊婦において直ちに分娩とすることは、元々小さい母体の予後不良のリスクをさらに低下させる可能性はあるが、その一方で新生児呼吸窮迫症候群のリスクを有意に増加させる結果となった。したがって、この時期においてもルーチンに早期娩出させることは正当化されず、臨床症状が増悪するまでは待機的管理が考慮されるべきだろう。

以上のように、結論的には軽症高血圧症例に対してはlate pretermの時期でも「臨床症状が増悪するまでは待機的管理」が推奨されています。
今年発刊された当学会編集の「妊娠高血圧症候群の診療指針2015」の中にはlate pretermに限ったCQはありませんが、軽症PIHの管理については以下のように記載されており、概ね今回の論文と矛盾しない内容となっています。

CQ:妊娠高血圧症候群軽症の管理法は?
軽症でも40週未満で妊娠終了させることが望ましい。(グレードC)

CQ:妊娠終結の決定条件は?
・母体要件による妊娠終結は、児の予後の如何にかかわらず妊娠継続が母体にとって危険と考えられるときに決定される。(グレードB)
・胎児要件による妊娠終結は、妊娠週数にかかわらず胎内環境の悪化が推定され胎外での管理の方が少しでも良好な予後を期待できるという判断ができるときに決定される。(グレードB)

CQ:分娩誘発の適応と時期は?
妊娠高血圧腎症軽症および妊娠高血圧軽症症例では、妊娠40週未満をめどに分娩誘発を考慮する。(グレードB)

一方「産婦人科診療ガイドライン産科編2014」においては、

CQ309-1:妊娠高血圧腎症診断と取扱いは?
Answer:36週以降の軽症の場合、分娩誘発を検討する。(B)

と記載されており、がイドラインの方は若干ニュアンスが異なっていますが、こちらについては現在2017年の改訂にむけて検討が進められているようです。

<文責:田中>

2015年6月

子宮内胎児発育遅延と妊娠高血圧症候群におけるミオスタチンの発現とミオスタチン処置に伴う第1三半期の胎盤移植片によるサイトカイン産生の変化

著者 Peiris HN, Georgiou H, Lappas M, Kaitu'u-Lino T, Salomón C, Vaswani K, Rice GE, Mitchell MD.
雑誌名 Reprod Sci 2015, 1-10.

ミオスタチンは筋肉の発達を抑制することで知られている蛋白であるが,他に,糖代謝・サイトカイン調節にも関与していることが知られている。さらに,ミオスタチンは胎盤形成にも関与しており,その血漿濃度や胎盤組織内発現は妊娠高血圧腎症(PE)において著明な高値を示すことが既に知られているが,胎児発育遅延(FGR)におけるミオスタチンの発現や胎盤におけるサイトカイン産生調節への役割については知られていない。本研究ではPE・FGRにおけるミオスタチンの発現と初期胎盤組織におけるミオスタチンによるサイトカイン産生の調節について検討している。ミオスタチンはsyncytiotrophoblast・cytotrophoblast・extravillous trophoblast(EVT)に局在しており,EVTの浸潤や増殖を促進する。正常妊娠では妊娠週数とともに胎盤におけるミオスタチンは減少することが知られている。
本研究では,妊娠12〜14週,PE・FGR発症前の母体から血漿を採取,胎盤組織は陣痛発来前の帝王切開において採取した。さらに第1三半期の絨毛を採取し,移植片培養を行った。ミオスタチン血漿濃度とサイトカイン濃度はELISAで測定し,胎盤組織から抽出したミオスタチン蛋白はwestern blottingで測定した。
血漿ミオスタチン濃度はPEにおいて発症前に増加したが,FGRでは変化なかった。PEやFGRの胎盤では,ミオスタチンの活性型ダイマーが増加していた。しかしながら,ミオスタチンの前駆物質はFGRでは増加していたが,PEでは低下していた。前駆物質の形成にはミオスタチンとプロペプチドが必要であり,プロペプチドは活性型ダイマーと結合し,ミオスタチンの受容体との結合を阻害することによってミオスタチンの作用を抑制する。PE胎盤ではダイマー/プロペプチド比が高いのでミオスタチンの作用が促進されている可能性がある。一方,FGR 胎盤ではダイマー/プロペプチド比が低いのでミオスタチンの作用が抑制されている可能性がある。さらに,ミオスタチンは妊娠初期胎盤の移植片に作用してIFN-gamma・IL-8・TNF-alphaなどの向炎症性(Th1)サイトカインの産生を抑制し,抗炎症性(Th2)サイトカインのIL-4産生を促進した。ミオスタチンの胎盤における機能の一つは,Th1からTh2に誘導することによって胎盤形成・機能維持に関与しているのかもしれない。
ミオスタチンは,PEが発症する前の妊娠初期の段階ですでに血漿濃度が増加しており,Th1優位と考えられているPEの病態を代償性にTh2へ誘導していると考えられる。さらに,PEにおけるミオスタチンの胎盤での発現増加は,胎盤の破壊ではなく維持に作用していると考えられる。

<文責:松原 圭一>

2015年5月

妊娠高血圧症候群の発症リスクは、妊娠高血圧症候群の既往や母体合併症、家族歴などの臨床的背景で算出さてきましたが、それでは30%程度の発見率しかありません。そこでThe Fetal Medicine Foundation(FMF)や商業ベースにおいて、母体情報に血圧や子宮動脈血流などのbiophysical marker、PAPP-A・PlGF・PP13・inhibin A・sEngなどのbiomarkerを組み合わせたスクリーニングが導入され始めています。5%のFalse positive rateで9割以上のearly-onset preeclampsiaが発見可能と言われています。今回FMFのアルゴリズムを用いてアスピリン投与がearly-onset preeclampsiaを減少させうるか検討されているので紹介します。

題名 Prediction and prevention of early onset pre-eclampsia: The impact of aspirin after first trimester screening
著者 Felicity Park, Kate Russo, Paul Williams, et.al.
雑誌名 Ultrasound Obstet Gynecol. 2015

目的
最近のいくつかの報告では34週未満で分娩を要するearly onsetのpreeclampsia (ePET)は妊娠11-13週で予測可能とされている。今回スクリーニングと低用量アスピリン治療とのコンビネーションがePETの減少に役立つのか検証した。

研究デザイン
ePETに対するスクリーニングを行った2つのconsecutive コホートにおけるretrospective解析である。1つ目は観察コホートで妊娠11-13週でのpreeclampsiaスクリーニングアルゴリズムを用いて観察のみ行った。2つ目は介入コホートでハイリスク群にはリスクに対するアドバイスおよびアスピリン(150mg眠前)を処方した。ePETや妊娠34-37週のPET頻度の比較を行った。

結果
観察コホートは3066人、介入コホートは2717人のスクリーニングを行った。観察コホートではePETが12人(0.4%)、介入コホートでは1人(0.04%)であった(p=0.01)。pretermのPET全体では観察コホート25人(0.83%)、介入コホート10人(0.37%)であった(p=0.03)。

結論
1st trimesterにおけるePETに対するスクリーニング及びハイリスク群にアスピリンを処方することはePETを減少させる効果的な戦略になりえる。

今回の研究ではePETを90%減少させる可能性が示されています。しかしePETを1人減らすために、29人のハイリスク妊婦にアスピリンを投与し、296人にスクリーニングを行う必要があります。全体に占めるearly-onset preeclampsiaはわずか0.3%程度と低く、陽性的中率の低さからコストベネフィットの問題、子宮動脈測定の技術的問題などがあり臨床的導入には時期尚早である(Quality of first trimester risk prediction models for pre-eclampsia: a systematic review. BJOG. 2015)という意見もあります。現在FMFで行われているDouble blind RCT(ASPRE project)の結果が待たれます。

<文責:味村 和哉>

2014年11月

妊娠高血圧腎症(preeclampsia; PE)を妊娠初期に発症予知する研究は古くから多く行われており、PAPP-A、sFlt-1、妊娠10-13週の子宮動脈血流波など、多くの予測因子とその組み合わせによる発症予知の試みが報告されてきました。hCGもその有力な候補のひとつでしたが、この論文の著者らも指摘しているように、その報告は妊娠初期の終わり頃のhCGを測定したretrospective studyがほとんどでした。本研究はIVF-ETを施行した症例を対象に、ET後12日目という早期のhCG値と後の重症PE発症との関連をprospectiveに観察した数少ない研究で、胎盤の形成不全にも言及した大変興味深い一篇です。

題名 Concentrations of human chorionic gonadotrophin in very early pregnancy and subsequent pre-eclampsia: a cohort study
著者 B.O.Asvold, L.J.Vatten, T.G.Tanbo, A.Eskild
雑誌名 Human Reprod 29(6): 1153-1160, 2014

[Study Question]
妊娠の非常に早い時期における血中低hCG濃度は、妊娠高血圧腎症(PE)発症と関連するか?

[Summary Answer]
非常に早期の妊娠での低hCGは、重症PEの発症リスクと関係する。

[Known Already]
絨毛細胞の増殖障害または侵入障害があると、母体の血中hCG濃度は低値を示す。それならば、非常に早期の妊娠における低hCGは胎盤の発育障害の指標になるかもしれない。胎盤の発育障害はPEの原因と考えられているが、「hCGがPEの発症予知になる」という仮説のprospectiveな証明はほとんどされていない。

[Study Design]
1996年から2010年にオスロ大学病院でIVF後に妊娠した単胎妊娠患者2405名を対象とし、ノルウェー出産登録システムとリンクしてprospective cohort studyを行った。ET後12日目に採血してhCG値を測定(ロシュ社、Elecsys)し、その後のPE発症(全PEおよび軽症・重症PE)との関連を調べた。

[Result]
血中hCG濃度はPE発症率と量依存性に逆相関した(PTREND0.02)。血中hCG≥150IU/lの妊婦と比べ、血中hCG<50IU/ℓの妊婦ではPE発症率が2倍であった(6.4 vs 2.8%、OR2.3)。血中hCG<50IU/ℓの妊婦では反比例関係は重症PEに限定され(PTREND0.01)、血中hCG≥150IU/lの妊婦と比べると重症PE発症率は4倍(3.6 vs 0.9%、OR4.2)であった。軽症PEではそのような関係は見られなかった。

[Wider Implications of Findings]
今回の結果は胎盤の形成不全が重症PEの進展に関係するという仮説のprospectiveな証明となっている。

<文責:野平 知良>

2014年9月

妊娠高血圧症候群など周産期合併症を発症した女性が後に高血圧、心血管疾患、生活習慣病などを発症しやすいことが知られており、アメリカ心臓学会も2011年心血管疾患発症リスク因子のリストにpreeclampsiaを加えるに至っています。今後は、こうしたリスクを抱える女性を分娩後如何にフォローしていくのか、そのフォロー体制の構築が課題になっていくと思います。2011年から始まった北米のある病院の試みです。

題名 The maternal health clinic: an initiative for cardiovascular risk identification in women with pregnancy-related complications
著者 Cusimano, MC., Pudwell,J, Roddy, M.et.al.
雑誌名 Am J Ob Gy vol.210. 438.e1–438.e9, 2014.

目的
ある特定の妊娠合併症を呈する女性では、将来の心血管疾患(CVD)発症のリスクが高まる。しかしながら、大部分の医療者は分娩後に心血管リスクに対するカウンセリングやフォローアップを行っていない。Maternal Health Clinicは、治療におけるこのギャップ解消のために設立された。CVD発症リスクが高い女性を対象として、生活習慣を変えさせ、長期のフォローを促し、一次予防を開始することを目的としている。ここでは、クリニック開設後の最初の17ヵ月の結果を要約する。

研究デザイン
今回の妊娠に関して少なくとも1つの関連合併症をもつ患者が、標準産褥オーダーシートを持参してMaternal Health Clinicに紹介されてきた。患者は、スクリーニング歴、身体所見、空腹時採血結果と検尿など十分な評価を受けた。各々の患者に対して、生涯CVD発症リスク値とメタボリック症候群予測を行った。

結果
照会原因となった合併症で頻度が多かったのは、妊娠性糖尿病または耐糖能異常(32.7%)、その他妊娠高血圧腎症(PE)(29.3%)、早産(29.3%)、妊娠高血圧(GH)(19.6%)などであった。クリニック紹介患者群(n = 92)と健常群(n = 118)を比較した。クリニック紹介群の患者は、健常群と比較して有意に生涯CVD発症リスク値が高かった(P < .0001)。さらに、メタボリック症候群予測値もクリニック紹介患者群で17.4%と、健常対照者6.78%と比較して有意に高値であった(P < .05)。

結論
妊娠は、心血管疾患のリスクを同定するだけでなく、予防戦略を始める良い機会を提供する。また若い女性が定期的ヘルスケアシステムにアクセスする1つの機会となり、心血管疾患リスク教育のための時間も提供してくれる。

今回の研究で、Maternal Health Clinicが将来のCVD発症のリスクとなる心血管リスクをもつ産褥患者を正確に同定できたことが証明された。このクリニックが第一次予防に有効なストラテジーとなり得る可能性がある。

<文責:田中>

題名 Could 3D placental volume and perfusion indices measured at 11-14 weeks predict occurrence of preeclampsia in high-risk pregnant.
著者 Hashish N, Hassan A, El-Semary A, Gohar R, Youssef MA.
雑誌名 J Matern Fetal Neonatal Med. 2014 Jul 28:1-5.

妊娠初期の胎盤重量や血流を、3D超音波を用いて評価し、その後のpreeclampsia発症の予測となりうるかを検討した。50人のハイリスク妊婦(既往妊娠の転帰が不良例、既往妊娠でPIHまたは妊娠糖尿病であった例、慢性高血圧合併例、糖尿病合併例、心疾患合併例、胎盤機能不全または羊水過少の既往例)と50人のコントロール群を対象とした。妊娠11-14週に3D超音波を用いて、胎盤重量・vascularization index (VI: 組織内の血管密度を想定した値)・Flow index (FI: 組織内の血流量を想定した値) ・vascularization flow index (VFI: 組織還流量を想定した値)を計測し、妊娠20-22週で子宮動脈のPI. RI. protodiastolic notchの有無を測定した。ハイリスク群の76%、コントロール群の12%でpreeclampsiaを発症した。妊娠初期の胎盤重量・VI・VFIはハイリスク群で有意に低値であった。妊娠中期の子宮動脈PI・RI値はハイリスク群で有意に高かった。子宮動脈PI値は、妊娠初期の胎盤重量と負の相関関係を認めた。妊娠初期に3D超音波を用いて胎盤重量と血流評価を行う事は、その後preeclampsiaを発症する可能性のある妊婦を抽出できるかもしれない。

<文責:川端、伊久乃>

2014年8月

題名 High risk human papillomavirus at entry to prenatal care and risk of preeclampsia.
著者 McDonnold M, Dunn H, Hester A, Pacheco LD, Hankins GD, Saade GR, Costantine MM.
雑誌名 Am J Obstst Gynecol 2014;210:138.e1-5

ハイリスクHPV感染とpreeclampsiaとの関連を調べたRetrospective Cohort Study。初診時にハイリスクHPV陽性314例(子宮頸部スメアでLSIS.HSILであった例、ASC-USでHPV-DNA検査の結果ハイリスク群陽性例、HSILを否定できないASC-US例)と陰性628例(初診時と3年以内の2回のスメア結果がいずれも正常であった例)を比較した。ハイリスクHPV陽性例では初産婦・喫煙者が有意に多く、年齢がより若く、BMIが低かった。初診時の血圧はハイリスクHPV陽性例で有意に低かった。しかし、ハイリスクHPV陽性例では、その後preeclampsiaを発症する例が有意に高かった(10.19% vs 4.94%, P<0.004, OR 1.31-3.65,95%CI 1.31-3.65)。また、有意差はなかったもののpreeclampsiaが重症化する傾向が認められた(5.1% vs 2.71%, p=0.09)。さらに、ハイリスクHPV陽性例では37週未満・35週未満の早産率が有意に高かった。ハイリスクHPVの持続感染による慢性炎症が、トロホブラストの子宮壁への侵入を妨げている可能性がある。ハイリスクHPVに対するワクチンの効果を待った上での大きなstudyが今後必要であろう。

<文責:川端、伊久乃>

題名 Could 3D placental volume and perfusion indices measured at 11-14 weeks predict occurrence of preeclampsia in high-risk pregnant.
著者 Hashish N, Hassan A, El-Semary A, Gohar R, Youssef MA.
雑誌名 J Matern Fetal Neonatal Med. 2014 Jul 28:1-5.

妊娠初期の胎盤重量や血流を、3D超音波を用いて評価し、その後のpreeclampsia発症の予測となりうるかを検討した。50人のハイリスク妊婦(既往妊娠の転帰が不良例、既往妊娠でPIHまたは妊娠糖尿病であった例、慢性高血圧合併例、糖尿病合併例、心疾患合併例、胎盤機能不全または羊水過少の既往例)と50人のコントロール群を対象とした。妊娠11-14週に3D超音波を用いて、胎盤重量・vascularization index (VI: 組織内の血管密度を想定した値)・Flow index (FI: 組織内の血流量を想定した値) ・vascularization flow index (VFI: 組織還流量を想定した値)を計測し、妊娠20-22週で子宮動脈のPI. RI. protodiastolic notchの有無を測定した。ハイリスク群の76%、コントロール群の12%でpreeclampsiaを発症した。妊娠初期の胎盤重量・VI・VFIはハイリスク群で有意に低値であった。妊娠中期の子宮動脈PI・RI値はハイリスク群で有意に高かった。子宮動脈PI値は、妊娠初期の胎盤重量と負の相関関係を認めた。妊娠初期に3D超音波を用いて胎盤重量と血流評価を行う事は、その後preeclampsiaを発症する可能性のある妊婦を抽出できるかもしれない。

<文責:川端、伊久乃>

2013年8月

題名 Mediators of the association between pre-eclampsia and cerebral palsy: population based cohort study.
著者 Strand KM, Heimstad R, Iversen AC, Austgulen R, Lydersen S, Andersen GL, Irgens LM, Vik T
雑誌名 BMJ 2013 Jul 9;347: f4089

妊娠高血圧症候群(PIH)の合併は児の脳性麻痺リスク増加と関連し、その関連は早産やSGA(small for gestational age)に左右される。正期産で出生した児では、児がSGAであった場合のみ、PIHと脳性麻痺が関連した。

<文責:担当幹事 野平 知良>

2013年1月

題名 Effect of supplementation during pregnancy with L-arginine and antioxidant vitamins in medical food on pre-eclampsia in high risk population: randomised controlled trial.
著者 Vadillo-Ortega F, et al.
雑誌名 BMJ. 2011 May 19;342:d2901.

【結語結語の概略】
一酸化窒素はL-アルギニンを基質として内皮細胞で合成される。妊娠高血圧症候群(PIH)ではこの重要な血管拡張作用を有する一酸化窒素は減少している。本症例報告では、前回PIHまたは第一親等の家族歴がある妊婦に対して、L-アルギニンと抗酸化ビタミン(228人)を補充する群、抗酸化ビタミンのみ(222人)、プラセボ(222人)の3群に分けてPIH予防効果があるかRCTにて検討した。プラセボ群ではPIHを発症したのは30%(67人)であったのに対して、L-アルギニンと抗酸化ビタミン群では13%(29人)と有意に減少した(p < 0.001)。抗酸化ビタミン群では23%(50人)と有意差を認めなかった。このトライアルはL-アルギニンがPIHの発症リスクを低減する可能性を示している。

<文責:担当幹事 味村 和哉>

2012年12月

題名 Eplerenone use in primary aldosteronism during pregnancy.
著者 Cabassi A, Rocco R, Berretta R, Regolisti G, Bacchi-Modena A.
雑誌名 Hypertension. 2012 Feb;59(2):e18-9. Epub 2011 Dec 5.

【結語結語の概略】
妊娠に原発性アルドステロン症が合併することは非常にまれであるが、併発するコントロール不良な高血圧は、母児にとって極めて危険である。積極的な治療が必要であるが、その選択肢は、副腎腫瘍の外科的摘出とスピロノラクトン投与のみであった。妊娠の早い時期では、外科治療が選択されることが多いが、妊娠中期後半以降は、スピロノラクトンによる治療を選択した報告が多い。スピロノラクトンは、抗アルドステロン受容体拮抗薬であると同時に、抗アンドロゲン作用による女性化という副作用があり、経胎盤に胎児に移行する。
エプレレノンは、アルドステロン受容体への選択性が高く、性腺への影響が少ない。本邦では、セララという商品名で処方が可能である。
本症例報告では、胎児の性別が男性である原発性アルドステロン症合併妊娠において、妊娠27週よりエプレレノン50mg/日が投与された。1週間ほどで血中カリウム値の正常化と血圧の下降が得られたが、妊娠35週で血圧のコントロールが不良となり、帝王切開術が施行された。児は、2,280g男児で、外陰部の形態異常やその後の発達異常を認めなかった。出生児の電解質やアルドステロン値、副腎の画像評価については記載がない。
症例報告ではあるが、今後、治療を選択するうえで参考になると考える。

<文責:担当幹事 村山 敬彦>

2012年11月

題名 Induction of labour versus expectant monitoring for gestational hypertension or mild pre-eclampsia after 36 weeks’ gestation (HYPITAT): a multicentre, open-label randomised controlled trial
著者 Corine M Koopmans
雑誌名 Lancet 2009; 374: 979-88

【結語結語の概略】
妊娠高血圧(GH)、妊娠高血圧腎症(PE)軽症例における重篤合併症回避に対する分娩誘発の有効性をRCTにて検討した。36週~41週のGH(拡張期血圧≥95mmHg)あるいはPE(拡張期血圧≥90mmHgかつ蛋白尿>0.3g/日)合併妊婦を分娩誘発群377名、待機群379名に分類した。poor maternal outcomeは分娩誘発群117名(31%)、待機群166名(44%)に起こった(RR 0.71、95%CI 0.59-0.86)。母体死亡、新生児死亡、子癇は両群で認めなかった。分娩誘発群と待機群での観察項目結果は、分娩週数:38.7 vs 39.9週、収縮期血圧重症化: 15 vs 23%、拡張期血圧重症化:16 vs 27%、HELLP症候群:1.0 vs 3.0%、肺水腫: 0.0% vs 1.0%、収縮期血圧重篤化:7 vs 12%、拡張期血圧重篤化:7 vs 13%。PIH軽症症例での分娩誘発は母体予後改善に有効であり、37週以降の該当症例に対して分娩誘発が推奨される。

【エビデンスレベル】

<文責:担当幹事 大野泰正>

2012年10月

題名 Association of early pregnancy sleep duration with Trimester-Specific Blood Pressure and Hypertensive disorders in pregnancy.
著者 Williams MA, et al.
雑誌名 SLEEP 2010; 33(10): 1363-1371.

【結語結語の概略】
妊娠初期における睡眠時間の妊娠経過中の血圧に与える影響について検討しており、妊娠前から妊娠初期に6時間以下および10時間以上の睡眠をとっていた妊婦は、3rd trimesterにおいて、収縮期血圧, 拡張期血圧, 平均血圧ともに上昇する。

<文責:担当幹事 牧野真太郎>

2012年8月

題名 Maternal pregnancy-related hypertension and risk for hypertension in offspring later in life's.
著者 Palmsten K et al.
雑誌名 Obstetric Gynecol 116: 858-864, 2010

【結語結語の概略】
母体の妊娠中の高血圧は、彼女のその後の人生における高血圧発症に関係する。

【エビデンスレベル】

題名 Metabolic syndrome as a risk factor for hypertension after preeclampsias.
著者 Spaan JJ et al.
雑誌名 Obstetric Gynecol 120(2 pt1): 311-317, 2012

【結語結語の概略】
妊娠高血圧症候群後のメタボリック症候群の存在は将来の慢性高血圧の発症と関係する。

【エビデンスレベル】

<文責:担当幹事 野平 知良>

2012年7月

題名 Associations of Pregnancy Complications With Calculated Cardiovascular Disease Risk and Cardiovascular Risk Factors in Middle Age: The Avon Longitudinal Study of Parents and Children
著者 Abigail Fraser, et al.
雑誌名 Circulation. 2012;125:1367-1380.

【結語結語の概略】
妊娠時に妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病(GDM)、子宮内胎児発育遅延(FGR)、早産などを認めた女性は、将来心血管疾患(CVD)を発症するリスクはそれぞれの疾患ともに高いとされているが、CVDに対するそれぞれの相互関係や機序などについては明らかでない。そこで、妊娠中に発症した前述4疾患につき出産後18年間におけるCVDの発症およびそのリスク因子の発生危険度と、それぞれ4疾患のCVD発症に対する相互関係につき前方視的コホート研究が施行された。
妊娠高血圧症候群は、CVD発症率は高くなり、高血圧、インスリン、中性脂肪、HDLコレステロール、BMI、腹囲など多くのリスク因子との関連性は認められず、高血糖との関連性が認められたことから、糖尿病発症といった全く異なったCVD発症機序からのものと考えられた。FGRもCVD発症率は高くなり、高血圧との関連性を認めたが、妊娠高血圧症候群など他の疾患との関連性は認めなかった。早産に関しては、CVD発症率の増加は認めなかった。さらに今回の研究結果から、妊娠高血圧症候群はCVD発症の多くのリスク因子との関連性が認められた事から、将来のCVD発症における最も強い予知因子であると考えられた。尚、更に長期にわたる調査を行う必要がある。

<文責:担当幹事 渡辺 員支>

2012年6月

題名 COMMITTEE OPINION no.514: Emergent Therapy for Acute-Onset, Severe Hypertension With Preeclampsia or Eclampsia 妊娠高血圧腎症または子癇の急性発症重症高血圧に対する緊急治療に関するACOG周産期委員会の見解
著者 The American College of Obstetrians and Gynecologists (ACGO) Committee on Obstetrics Practice
雑誌名 Obstet Gynecol. 2011;118:1465-8

【概略】
妊娠高血圧腎症か子癇を発症している妊娠中または分娩後の患者で、急性に発症して持続(15分以上)している重症の収縮期期高血圧(160mmHg以上)または重症の拡張期高血圧(110mmHg以上)、または収縮期、拡張期とも重症高血圧を示す場合は、高血圧性緊急症として扱われる。重症の収縮期高血圧は、これらの症例で脳出血や脳梗塞を引き起こす最も重要な予知マーカーとなる。そしてもし迅速に治療されなければ母体死亡に至りうる。このような臨床経過での急性で重症の高血圧の管理には、経静脈投与のラベタロールかヒドララジンの両者が第一選択薬として考慮される。医師および看護師による母体および胎児のモニタリングを厳重に行なうことが推奨される。妊娠高血圧腎症や子癇を合併した妊娠中および分娩後の急性で重症高血圧に対する初期治療のためのラベタロールやヒドララジンの用法指示セットが完成しつつある。さらに、急性の高血圧治療がうまく行かなかった場合、第2選択として微量点滴によるラベタロールまたはニカルジピンの持続点滴投与が考慮される。高血圧緊急症が一旦治療された後、母体および胎児機能に関する完全で詳細な評価が必要であり、さらに引き続いて継続的な薬物治療と適切な分娩時期が決定されることが求められる。表(Box 2.)としてヒドララジンを用いた指示セットを示した。Box 1についてはラベタロールを用いた指示セットであるため割愛した。

【紹介コメント】
わが国では、ラベタロール(αβ阻害薬;トランデート錠)は、経口薬のみしか供されていないため、高血圧緊急症治療薬として用いることは出来ない。わが国では、第一選択薬と位置づけとして、ニカルジピン(ペルジピン注)の微量点滴投与またはヒドララジン(アプレゾリン注)を位置づける指針を日本妊娠高血圧学会で示す予定である。またニカルジピンの微量点滴投与の具体的な一例として日本妊娠高血圧学会編 PIH管理ガイドライン2009のp182に大阪市立総合医療センターの投与指針(中本)を示している。
米国とわが国では認可されている降圧薬、点滴ポンプや輸液ポンプの整備環境は自ずと異なり、米国の選択薬に合わせる必要はない。
しかしながらわが国としても注目しなければならないことは、この委員会意見が降圧治療を行なう際の監視環境、薬剤の投薬方針について予め系統的に指示されている周産期管理指針の整備を求めていることである。これは内外の医療環境が異なっていても同じであり、わが国においても、場当たり的ではない系統的で安定的持続的降圧のための管理、即ち降圧開始基準と降圧目標を設定した具体的降圧薬の使用方針と監視間隔を明示した指示セットが、学会勧告のレベルで既に求められていると言うことである。

<文責:担当幹事 中本 收>

2012年5月

題名 Homocysteine and folate concentrations in early pregnancy and the risk of adverse pregnancy outcomes: the Generation R Study.
著者 Bergen NE,, et al.
雑誌名 BJOG. 2012 May;119(6):739-51.

【結語結語の概略】
妊娠初期における高いホモシスチン濃度と低い葉酸濃度は胎盤重量の低下や低出生体重と関連した。特に、葉酸濃度が低い場合には37週未満の自然早産や在胎週数に比較して小さい児の出産、妊娠高血圧腎症発症と関連した。感度分析の結果、葉酸とホモシスチンの双方が、胎盤形成が起こる妊娠早期に特に作用しているかもしれないと考えられた。 喫煙や飲酒、葉酸サプリの摂取などの、いくつかの母体の生活習慣要因や、栄養や生活習慣の代理指標としての体重は、ホモシスチンや葉酸、ビタミン12に影響を及ぼしている。したがって、妊娠前の栄養状態や生活習慣の最適化が重要であると考えられた 。

<文責:担当幹事 目時 弘仁>

2012年4月

題名 Syncytiotrophoblast microvesicles released from pre-eclampsia placentae exhibit increased tissue factor activity
著者 Gardiner C, et al.
雑誌名 PLoS One. 2011;6(10):e26313.

【結語結語の概略】
妊娠高血圧症候群に胎児成分からの流入成分が関与している可能性は以前から 指摘されているが、近年、合胞体性栄養膜(Syncytiotrophoblast)由来の微小因子(STBM)が母体血中に流入し、特に血液の凝固異常に影響を及ぼしている可能性が考えられている。著者らは妊娠高血圧症候群由来の胎盤からSTBMを抽出し、正常妊娠由来のSTBMに比してTissue Factorを介した血液凝固能を亢進させることを明らかにした。微小因子(Microvesicle)の表面抗原が疾患における各種病態発現につながると考えられており、Tissue Factorによる血液凝固はその重要な一つであるかもしれない。

<文責:担当幹事 成瀬 勝彦>

2012年3月

題名 Neonatal side effects of maternal labetalol treatment in severe preeclampsia 重症妊娠高血圧腎症妊婦に対するラベタロール療法の新生児における副作用
著者 Heida KY et.
雑誌名 Early Human development 2012 (E-Pub)

【結語結語の概略】
妊娠高血圧腎症に対してのラベタロール療法が新生児に与える影響について、症例対照研究で比較した。 ラベタロールを使用した母体から出生した新生児では、低血圧が有意に多く発症していた。低血圧の発症に関連するその他の因子としては、気管内挿管と動脈管開存症(PDA)が挙げられる。 今回の検討では、その他の新生児合併症である低血糖と徐脈はラベタロールの使用とは関連していなかったが、低血糖は児の未熟性と関連していた。 これらの所見より、妊娠高血圧腎症に対するラベタロール治療母体から出生した新生児においては、出生初日の頻回な血糖測定と血圧測定が重要となり、PDAを合併し挿管された早産児においては特に注意が必要である。

【エビデンスレベル】
III(症例対照研究)

<文責:担当幹事 三宅 秀彦>

2012年2月

題名 Potential interaction of brain natriuretic peptide with hyperadiponectinemia in preeclampsia
著者 Masuyama H, et al.
雑誌名 Am J Physiol Endocrinol Metab. 2012 Mar;302(6):E687-93.

【結語結語の概略】
インスリン感受性を亢進させる脂肪細胞由来のサイトカイン、Adiponectinが妊娠高血圧症候群で上昇することは以前から指摘されていたが、その機序は明らかではなかった。著者らは脳性利尿ペプチド(BNP)が重症妊娠高血圧症候群患者の血中でAdiponectin濃度と正相関すること、また脂肪細胞レベルでBNPがAdiponectinを誘導していることを示したが、この相関はやせ型の患者で強く、肥満を伴う患者では弱かった。BNPが疾患においてアディポサイトカインに与える影響を示すとともに、同じ疾患でもやせ・肥満のある患者間では疾患の病態が異なる可能性も示唆された。

<文責:担当幹事 成瀬 勝彦>

2012年1月

題名 Subclinical thyroid disease and the incidence pf hypertension in pregnancy
著者 Wilson KL, et.al.
雑誌名 Obstet Gynecol 2012 Feb 119, 315-320

【結語結語の概略】
甲状腺疾患はPIH発症のリスク因子であることは知られていますが、甲状腺疾患を除外した検査異常を示したのみの妊婦とPIHの関連に関する論文です。 2000年から2003年までの24,833人の甲状腺疾患のない妊婦を対象として、TSH、fT4から甲状腺機能を正常、亢進、低下にわけたところ、甲状腺機能低下の患者でPIH発症の頻度が有意に高かった。また甲状腺機能正常の患者に比べて、甲状腺機能が低下している患者では重症妊娠高血圧腎症のリスクが高まることがわかった。

【エビデンスレベル】
II

<文責:担当幹事 田中 幹二>

2011年12月

題名 Emergent therapy for acute-onset, severe hypertension with preeclampsia or eclampsia.
著者 Committee on Obstetric Practice
雑誌名 Obstet Gynecol 2011 December; 514: 2-4

【結語の概略】
米国産科婦人科学会の妊娠高血圧腎症や子癇患者にみられる急な血圧の重症化(高血圧緊急症)に対する脳出血や脳梗塞を防ぐための降圧管理の提言である。妊娠高血圧腎症や子癇患者が15分以上にわたり、重症高血圧(収縮期160mmHg以上または拡張期110mmHg以上)を認めたとき、降圧薬静注を行う。使用薬剤はラベタロールまたはヒドララジンで、それでも降圧が出来ない場合、ニトロプルシドを使用する。ラベタロール静注薬がない場合は、経口薬200mgを降圧されるまで30分毎に繰り返し投与する。ラベタロールやヒドララジンは臍帯血流を変化させない。ラベタロールは心不全や喘息合併患者には使用を避けるべきである。ヒドララジンは母体の低血圧を起こすことがある。ニトロプルシドは母体の脳浮腫を悪化することがある。静注降圧薬投与は、妊婦の高血圧緊急症おいて必須の治療である。

コメント
PIHガイドラインでは、降圧の2次選択薬として、ヒドララジンとニカルジピンの経静脈投与が推奨されている。高血圧緊急症では2次選択薬を用いる。現在、日本ではラベタロールやニトロプルシドの静注薬は使用できない。この文献ではカルシウム拮抗剤は使用経験が少なく推奨されていない。昨年、ラベタロールは経口薬が使用になった。日本における高血圧緊急症の管理指針の見直しが必要である。

【エビデンスレベル】

<文責:担当幹事 鈴木 佳克

2011年11月

題名 Deep trophoblast invasion and spral artery remodeling in the placental bed of the lowland gorilla.
著者 R.Pijnenborg et al.
雑誌名 Lancet. 2010 Jul 24;376(9737):259-66.

【結語の概略】
入手の稀なゴリラ胎盤組織を使用してPAS染色、lectin染色、cytokeratin-7免疫組織染色を行い絨毛細胞の深部浸潤についての検討した。妊娠週数の不明な胎盤では間質ならびにらせん動脈の脱落膜ならびに子宮筋層内側への浸潤を認めた。絨毛細胞の浸潤はヒトにおける妊娠10-14週相当であった。
妊娠第二三半期での胎盤では絨毛細胞を含むらせん動脈のリモデンリング脱落膜細胞下でのEVTを認めた。限られた標本ではあるが、絨毛細胞の浸潤の鍵となる所見はヒト、チンパンジーと並んでゴリラにおいて共有していると結論付けることができる。

<文責:担当幹事 杉村 基>

2011年10月

題名 Vitamins C and E for prevention of pre-eclampsia in women with type 1 diabetes (DAPIT): a randomised placebo-controlled trial.
著者 McCance DR, et. al
雑誌名 Lancet. 2010 Jul 24;376(9737):259-66.

【結語の概略】
抗酸化剤であるビタミンCとビタミンEの投与は、1型糖尿病合併妊婦の妊娠高血圧症候群発症を抑制するか調査した。ビタミンCとビタミンE投与群375例、プラセボ群374例にて検討された。妊娠高血圧症候群発症率に関して、ビタミン剤投与群が15%、プラセボ群が19%と有意差を認めなかった。今後、抗酸化作用の低い妊婦においてビタミン剤の投与が有用であるか検討する必要がある。

<文責:担当幹事 片山 富博>

2011年9月

題名 Hypertension in pregnancy as a risk factor for cardiovascular disease later in life
著者 VD Garovic, etal
雑誌名 J Hypertens. 2010 April; 28: 826-833

【結語の概略】
米国Family blood pressure program study(2000~2004年)の中で、PIH既往有女性群(3421人)とPIH既往無女性群(643人)を比較したところ、前者は後者に比較して、後の高血圧発症率が50%、心疾患発症率が14%、脳卒中発症率が12%各々増加した。PIHはその後に発症する高血圧、脳卒中の独立したリスク因子であることが示唆された。

【エビデンスレベル】

<文責:担当幹事 大野 泰正>