第25回日本エイズ学会学術集会・総会

ご挨拶

第25回日本エイズ学会学術集会・総会
会長 高 橋  秀 実
日本医科大学 微生物学・免疫学講座 教授

2011年は、日本エイズ学会が発足してちょうど四半世紀(25年目)の節目にあたります。また1981年、後天性免疫不全症候群(エイズ)という疾病の存在が米国のMichael Gottlieb医師によってNew England Journal of Medicine誌に報告されてから30年目に相当します。この間、疾病の原因が一種のレトロウイルスであるヒトエイズウイルス(HIV)の持続感染症であることが明らかとなり、HIVの解明とともに抗ウイルス剤の開発が精力的に展開されました。その結果、当初はこの致死的な病気エイズを「現代の黒死病」と称し恐れ、忌み嫌う風潮がありましたが、抗エイズ薬の組み合わせによる強力な抗HIV療法(HAART療法)の開発によって、エイズは最早致死的な病気ではなく慢性肝炎のような一種の「慢性ウイルス感染症」である位置づけとなって参りました。
ところが、一方において現時点での抗エイズ療法をいくら続けても、体内に侵入したHIVを完全に除去することは不可能であり、薬剤の使用を中断した場合押さえ込んでいたウイルスが比較的短時間で復活し元の免疫不全状態をもたらすため、薬剤の服用を生涯続ける必要があることも判明してきました。さらには、薬剤の長期服用に伴う副作用や、癌の発生を含め様々な疾病が新たに発生することも分かってきたのが実状です。
このような中、いったんHIV持続感染状態に陥った場合には、従来のようにCD4陽性Tリンパ球が一定数まで低下してから治療するのではなく、できるだけ早期から治療を開始した方が経過が良いことも明らかとなってきました。また、早期治療の導入に伴う簡便で安価なモニタリング方法の開発や、より安価で安全な治療薬の開発、そして他のウイルス感染症と同様、ワクチン開発を含め生体に内在する免疫力活性化によるウイルスとの共生も、今後重要な視点となってくると考えられます。
以上の現状を踏まえ、新たな節目を迎える第25回日本エイズ学会学術集会では、「新たなエイズ制圧への道」というテーマを掲げ、これまでに蓄積された様々な情報をもとにエイズ学会員の知恵を集め相互の情報交換を進めるとともに、今後のエイズへの対応を考えてみたいと思います。そのための方策として、できるだけ多くの方にご発表頂きDiscussionすること、会場のハイアット・リージェンシー東京に設置された広大な地下のワンフロアーを貸し切り、できるだけ移動を少なくし「基礎」「臨床」「社会」の研究メンバーの相互交流を図ること、そして第24回の岩本会長の方策を継承し、それぞれの成果としての知恵を共有するため、他の演題は並行しない時間を設定し、各分野の代表的な方に2011年における「現状と展望」を語って頂き、それに引き続いて学会員全体での懇親の場を設け、親睦を図りたいと考えております。
このような中で、エイズという疾患を「慢性感染症」としてとらえることの重要性に鑑み、製薬業界のご協力を賜り、新たな抗エイズ薬およびその使用法の指導とともに、ワクチン開発を含め他の様々な感染症の実体ならびに治療法のことも学ぶ機会を提供したいと考えています。また、「エイズ制圧への新たな道」を模索するための情報提供として、HAART治療により血液中のウイルスが検出感度以下となった場合でも、粘膜組織にウイルスが残存することに着目し、内外から粘膜組織におけるエイズ研究の第一人者をお招きしご意見を拝聴することによって、粘膜組織におけるウイルスの制圧法についても考えてみたいと思います。この第25回日本エイズ学会学術集会が会員相互の親睦ならびにエイズへの理解を深め、よりよい治療環境を提供する糧となることを強く願っております。

平成23年1月吉日